「数学」を働きながら、シッカリ・効率良く・つまづかずに学びたいあなた、こちらはいかがでしょうか【ものづくりの数学のすすめ】

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実務に活かすための数学というと、どのような分野があるでしょうか?

現在の日本には、純粋数学とは別に、産業応用を含んだ数学の研究コミュニティがあります。

たとえば、「応用数学」といった学会などです。

しかしアカデミックの性格上、分野を限れば学問の内容も特定の範囲に絞られる性質があります。

企業の研究開発では、特定の範囲では収まらない事例が多く、アカデミックとしては異分野の内容ですが、それら複数を理解して、総合的に活かすことが重要になってきます。

今回紹介するのは、「ものづくりの数学」ということで、企業の技術者として働きながら、毎年数本の論文を執筆されたという実績を残されている松谷茂樹さんの1冊で、数学を様々な分野に応用していきたい方などにもおすすめ本となっています。

本記事の概要

本書は3部構成になっています。

①、「ものづくりの数学」という概念がなぜ重要なのか?

といった点について、産業界での時代の変化や、日本のものづくりという観点から考察されています。

まず、日本のものづくりの現状として、日本のものづくりの3つの危機、日本のビジネスモデルの崩壊、他国の戦略との比較などを、濃い内容をスムーズに理解させてくれます。その上で、日本人の特性を踏まえた、数学を活かしていくための2つの方向性をシッカリ示してくれています。

次に、現代数学(理学部数学科の数学)を理解するために、その特徴を以下の7点で整理されています。

  • 代数構造
  • 抽象化
  • 本質を抉りだす
  • 大局と局所
  • 厳密な確率論
  • 数学で答えは1つではない
  • 既に生活に入りこんでいる

身近な生活との関わりでは、圏論とコンピュータ、暗号とフェルマーの定理、医療の現場、人工知能、として、数学との関わりが紹介されています。

加えて、現象を数学の言葉で記述する「数学モデル」とは?として、上述の3つの危機への処方箋としての見方としても解説されています。いくつかの参考文献とともに実際の高度な数学モデルの例が挙げてあり、あなたの関心に近いものが見つかるのではないでしょうか。

 

②、ものづくりの数学を「実践で活かす」には、どうするればいいのか?

この第2部では、数学をいかに実践で活用していくかについて、キャノンでの豊富な経験を踏まえながら示されています。非アカデミックの研究の魅力などがアカデミックの特徴と比較しながら、簡潔に述べられています。

理学部数学科の学生さんであれば、このあたりを読むと、企業で数学を活かすというのはどういうことか、といった考え方や現場の様子や雰囲気を感じることが出来るのではないでしょうか。

さらに、「現場で数学を活用するための6つのポイント」がまとめられています。

  • 黙し、傾聴せよ
  • 黙し、俯瞰せよ
  • 置き石を踏むようなロードマップを用意せよ
  • problem builderを目指せ
  • 結果を共有せよ
  • 計算機シミュレーションを使いこなせ

それぞれにファラデー、ファインマン、フォン・ノイマン、オイラー、ガウスなどの偉人たちも交えながら、わかりやすく、具体的に解説されています。

 

加えて、ものづくりの数学の肝となる「数学モデル構築のための7ヶ条」もまとめられています。数学モデルを作りたいけど、

  • どう考えたらいいんだろう?
  • どこに注目したらいいんだろう?
  • なにに注意したらいいんだろう?

といった初学者だけでなく、現在の業務で数学モデルを作っている方など、よりよいモデルを構築できるノウハウがぎゅっと凝縮されています。

最後に、歌手の山下達郎さんのインタビュー記事が書いてあり、

「・・・市井の黙々と真面目に働いている人間が1番偉い。それが僕の信念です。(中略)職人たちは有名になることにこだわりがないでしょう。人の役に立つ技術を自分の能力の限り追い求めているだけ。それが仕事をする人間の本来の姿だと思います」

とあり、山下さんのWikipediaによると、中学生のときの夢が宇宙物理学者・天文学者だったとのことで、山下さんにも根底に、数学者(?)に近い感性があったのだろうなぁと想像したりしました。

③、現代数学(理学部数学科レベルの数学)を独学する方法とは?

第3部では、「仕事をしながら、いかに数学を独学していくか」という方法についてまとめられています。

  • 仕事をしながらいかに時間を作りだすか、
  • 本は、今必要、2・3年後に必要、10年後を見据えたものの3冊を読むべし
  • 孤独を恐れず、学問的なコウモリとなる

といった勉強していく際の心構えなども学べます。

 

加えて、上で述べたように、数学を企業の研究で活かすには、分野横断的な理解が必要になってきます。そのときに初心者が躓かないように「異分野を研究するための7ヶ条」がまとめられています。意外と気づきにくい「心のバリヤーの除去」ということで、具体的な方法が7つ示されています。

 

最後に、社会人の場合、身近に相談できる専門家がいないことが多いかもしれません。そういった場合でも挫折しないように、「現代数学を独学するための6ヶ条」が挙げられています。

たとえば、位相幾何、代数の基礎、測度論が現代数学の”いろは”であることや、現代数学を理解していくときの考えかたや取り組み方、慣習についての知識など、理学部数学科教育を受けていない人には、教科書には書いてないけど知っていると大変参考になる内容だと思います。

 

最後に付録として、

  • 言葉としての現代数学
  • 異なる技術分野を橋渡しする言葉としての数学

といった観点から、フッサールやポパー、クーン、ファイアーアーベントなどの例を交えながら、解説されています。また、高度な数学モデル構築の具体例として、

  • パーコレーションの電気伝導
  • 流体力学のモデル

が紹介されており、従来の狭い工業数学だけでは記述できなかったものが、異分野を融合させることで、解決されたことが分かります。

本書の構成は以下の通りです。

まえがき

第1部 ものづくりの数学とは(産業構造改革における数学の役割)

第1章 ものづくりの数学とは

第2章 なぜ今ものづくりの数学なのか

第2部 現場でのものづくりの数学活用方法(実践編)

第3章 ものづくりの数学 現場サイドから眺めてみると!

第4章 現場の課題解決に数学を活用するための6ヶ条

第5章 数学モデル構築のための7ヶ条

第3部 ものづくりの数学技術者への道(勉強方法)

第6章 理論技術者が理論技術者であり続けるための6ヶ条

第7章 異分野の研究を理解するための7ヶ条

第8章 現代数学を独学するための6ヶ条

第4部 付録

第9章 付録

参考図書

 

となっています。

本書では、社会人になってから大学理学部数学科レベルの数学を独学で身につけて、論文発表も可能にした勉強方法が参考になります。加えて、アカデミックと企業でのものの見方や考えかたの違いなど、簡潔にわかりやすく述べられています。

数学を勉強したいと考えている社会人の方はもちろん、数学科で勉強経験のある方も、産業へ活かす数学というのはどういったものか?といった、広い視野を得られる1冊となっています。

数学との向き合い方や、異分野のコミュニティでの振る舞い方、異分野の内容を吸収する際に気をつける点など、あらゆる分野で数学を吸収して活かしていきたい方の参考になる良書となっています。

 

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